通勤時間の時間つぶしのために、近くの書店で拾ってみたのがこの小説イキガミ。
9月後半には映画化もされ、評判も気になる作品です。元々はマンガから出発した作品だったらしいのですが、反響の良さから、映画化、小説化という流れになったようです。
ちょっと今回は趣向を変えて、イキガミが現実世界にもたらされていたらどうなるかを真面目に考えてみます。
イキガミってなに?という方のために説明しておくと、イキガミ(逝紙)というのは政府から発行された死亡予告証のことです。小説の中では、小学校に入学した直後の児童がナノカプセルを体内に注射され、20才過ぎになった頃に0.1%の確率で破裂する仕掛けになっています。で、そのナノカプセルが破裂する時刻が書かれているのがイキガミ、という訳です。
さすがに勝手に殺されてはたまらないので、ナノカプセルの破裂で死亡した人の遺族には国繁遺族年金が支給されることになっています。
そこで疑問だった点が2つあります。
1つ目が、0.1%もの高確率で、ある世代の人間を殺す結果よりも、死ぬかもしれないという恐怖心による犯罪率の低下や生産性の向上の方が上回ることがあるのか、という点。
2つ目が、ナノカプセルの破裂による遺族年金のお金の出どころはどこなのか、という点です。
今の人口が1億2千人。全ての人間が90才まで生きると仮定すると、同じ年の人達は133万人いることになります。ナノカプセルによって死ぬ人は133万人の0.1%ということで、1330人になります。これは交通事故により亡くなる人達の1/5程度の規模です。お、意外に少ないかも?と思った人は若干詰めが甘いです。交通事故により亡くなる人は全年齢が対象になっているので、18才から24才までに限定した場合はもっと少ないはずです。
これにより、恐怖心をあおられて犯罪率が低くなるかと言われると甚だ疑問です。
確かに刑罰を厳しくすることで犯罪率は低くなるとは思うのですが、これは「犯罪を犯す」→「刑罰を受ける」という関係がはっきりとしているから。何もしていないのに突然刑罰(しかも死刑)を受けることになっても犯罪率が下がらないのではないでしょうか。同様の理由で、生産性が向上するとも思えません。
また、遺族年金は国のどこからかが払うことになるのですが、これはいわば税金から払うことになるわけです。仮にこの遺族年金が、亡くなった人が稼いだいたはずの金額をそのまま払っているとすると結構な額になります。1人当たり500万円×1年間の死亡者1330人×40年分= 2660億円を余分に支出することになります。他にもナノカプセルを管理するためのシステム管理費やら、ナノカプセルの開発費、イキガミ配達のための人件費などなど、高額な支出が押し寄せるはずです。予算の全体の割合としてはわずかかもしれませんが、メリットもあまりないのにお金をかけるのもどうなんでしょうね。
そんなわけで、イキガミが現実にあったとしても、すごい勢いで廃止の方向に向かうのではないかとどうでもいい推測してみました。
ちなみに小説自体はいいお話も多くて、学ぶこともたくさんあります。短編なのでさらっと読める点もお勧めです。